どこまでも亀

昨日、というか、一昨日、第5回日本翻訳大賞の授賞式が無事終わりました。きてくださった方、協力してくださった方、本当にありがとうございました。来年は、ゲストの選考委員として斎藤真理子さんをお迎えすることになりました。

 

さて、ついこないだ発売になったジョン・グリーンの『どこまでも亀』、おそらくあちこちの本屋さんで平積みになってると思います。おそらく、ジョン・グリーンの作品のなかで最も緊張感が強く、最も悲痛で、最も文学性が高く、最もおもしろい……と思う! はっきりいって、すごいです。 ぜひ、立ち読みでいいから、最初のところだけでもどうぞ。

 

知り合いのファンから早くも素敵な感想が寄せられたので、途中、何カ所か削りながら掲載します。ご本人の許可はいただいています。

 

私の10代のメインイベントは、まあ摂食障害と不登校なんですが、『どこまでも亀』には、そのころの気持ちが、感じたときの新鮮さのままで、そっくりそのまま冷凍保存してあって、アーザを通して自分の過去を見たような気がします。 おそらく私だけではなくて、この本を読む人はみんな、そんな体験をするのではないでしょうか。アーザは強迫性障害ですが、摂食障害の症状にも強迫的なものがあって、私も「太るのではないか」という気持ちにとらわれると、まったくなにもできなくなってしまって、とてもつらかったのを覚えています。勉強がしたいのに、あるいは遊びたいのに、一度「太るのではないか」と思うと不安で不安で、ジムに行かないと気が済まない。でも、ジムに行ったところで気が済むわけではないことも分かっている。でも、行かなければパニックになる。 摂食障害が私をコントロールしていて、私の人生は摂食障害に食い破られてしまう、と思っていたので、アーザの「自分の考えが自分のものでない」「微生物に殺されてしまう」という恐怖は、痛いほどよくわかります。デイヴィスから大金をもらった後や、事故で入院したとき、アーザの症状はひどくなっているのを見ると、アーザの雑菌への恐怖は、他のもっと大きな恐怖から目を逸らすための隠れ蓑なのかもしれないと思います。 この大金でデイヴィスとの関係がどうなるかなんて、あまりにも複雑で大きすぎる上に、考えてもどうにもならない問題ですが、中指の雑菌だけに意識を集中していれば、その問題については考えずにすみます。で、自分の障害が、周りにとって迷惑なんだろうなとも思っていて、なのに「迷惑だ」とは決して言わずそばにいてくれる人たちに対して、申し訳なく思いつつも、どうかそのまま言わないでいてほしいとも思ってしまって、それが身勝手な願いなのもわかっているんですよね。だから、デイジーに「その恐怖症って、ある種、壊滅的被害をもたらすんだよ」と言われたときは、ああついに来ちゃった、そう思ってるのは心のどこかで知っていたけど、直視したくなかったのにって、読んでいる私までどんどん身体が冷たくなっていく感じがしました。わかってる、大変なのは自分だけじゃないことも、自分の強迫症状が人の迷惑になってるのもよくわかってる、でも私自身にはどうしようもないんだって叫びたい気持ちです。 一方で、デイジーの気持ちもすごくよく分かるんです。アーザの苦しみを10としたら、デイジーのそれは3くらいかもしれないけれど、0ではありません。アーザはデイジーの痛みをほぼ「感受していない」ということは、「0と認識している」と言い換えられますが、3を0にされることは、痛みを無視されることにほかならないんですよね。痛みを無視されることは、ときに痛み自体より大きな痛みです。それに、この数値はあくまで強迫性障害の苦しみの目盛りであって、たとえば家の貧しさの目盛りなら、デイジーの方が大きいわけで、それを無視されたら腹が立つに決まっています。その人がどんなにすばらしい友人であっても、まるごと全部好きになるなんてことは、できないんですよね。どうしたって不満や許せないところはある。でも、だからその友人を嫌いになるかというと、そうではない。許せないところはあっても、それを越える好きなところがあって、愚痴や不満は、むしろ吐き出すことで、ある日突然キレたりしないで、その人と長くつき合い続けていくための行動だったりする。 デイジーも、ああして爆発したからこそ、アーザとの友情が保てたのではないでしょうか。金原さんもあとがきに書いていらっしゃいますが、私もデイジーはいいキャラだなあと思います。必ずしもアーザにとって完全に都合のいい存在でないことも含めて。

 

という、じつに素敵な感想でした。本の訳者あとがきよりいいかも。

 



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