2019年1月12日

『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(現代俳句協会青年部編、ふらんす堂)がおもしろい、すごい、すばらしい!
「新興俳句」作家44人を取り上げ、それぞれに5ページくらいの解説があって、注目すべき句100句をそえてある。収録されている句だけで4400。それを読むだけでも(有名な句もある一方、知らなかった……けど、声を上げたくなるほど素晴らしい句も多数あって)、発見に次ぐ発見。昭和の一時代に、こんな句が!
「新興俳句」とか、偉そうに書いてるけど、ぼくはいままでその名称と創始者、水原秋桜子くらいしか知らなかった。その歴史も前書きでじつにコンパクトにうまくまとめられているし、44人についての解説もそれぞれに個性的ながら、伝えたいことがしっかり伝わってくる。力の入った紹介文はどれも気持ちがいい。帯文によれば、2、30代の人たちが中心になって作った本とのこと。
こんな若者が頑張っている俳句界、これからが楽しみだ。


取り上げられている44人について少し書いておこう。
石田波郷、加藤楸邨、西東三鬼、橋本多佳子、東鷹女、水原秋桜子、山口誓子といった有名な人以外、ぼくは知らなかった。喜多青子、芝不器男、永田耕衣、吉岡禅寺洞など30人以上の、知らなかった句に出会えたことがうれしいし、選ばれている句が――もちろん好きな句も、「?」と思う句もあるけど――100句でもって大きな存在を感じさせてくれるのもうれしい。


いま波止影夫(269ページ)まで読んできて、「この海に死ねと海流とどまらず」という句に出会ったところだ。この人の解説に、次のような記載がある。
「昭和一五年二月一四日、平畑静塔ら「京大俳句」のメンバー八人が突如検挙された。「京大俳句」事件である。この八人の中には、当時二九歳だった影夫がいる。影夫はおよそ一年間の拘置所生活を経て、翌昭和一六年初め、仁智栄坊、静塔とともに懲役二年、執行猶予三年の有罪判決を受けた」
ちょうど、昨日観た試写会が、ジェイムズ・ボールドウィン原作の『ビール・ストリートの恋人たち』だった。主人公の黒人の青年がえん罪で投獄される。


また、「陸軍の学徒兵として中国に出征」した鈴木六林男の句も印象的なものが多い。
・失語して石階にあり鳥渡る
・かなしければ壕は深く深く掘る
・秋深みひとりふたりと逃亡す
・遺品あり岩波文庫「阿部一族」
・射たれたりおれに見られておれの骨
・暗闇の眼玉濡らさず泳ぐなり
・全病むと個の立ちつくす天の川
・わが死後の乗換駅の潦(にわたずみ)


あと、佐藤鬼房。
・切株があり愚直の斧があり
・ひでり野にたやすく友を焼く炎
・死が見えて死後が見えざる黴の夜
・馬の目に雪ふり湾をひたぬらす
・砂礫吐くミキサーにどんづまりの冬陽
・泥の浅利よいま叫ばねば鬱血す


あと、桂信子。
・雪たのしわれにたてがみあればなほ
・海を視る海は平にただ青き
・木漏れ日のむらさき深く時雨去る
・閑暇憂し金魚は昼の水に浮き
・傘ひくく母の痩せたる夏野かな
あと……いくつもここに書きたい句があるけど、とりあえず、このへんで。昨日からずっとこの本を読んでいる。解説は難なく読めるけど、2ページに100句詰めこまれているので、目が疲れる。かといって、いちいち眼鏡をかける時間が惜しい。
あとがきによれば、「戦前の同人誌が中心となる新興俳句運動は、とにかく資料が手に入りにくい」とのこと。その資料の探査から始めたという、このアンソロジー、俳句に興味のない人にもおもしろいと思う。
とくに、図書館には絶対、入れてほしい。そして、この本を中心に俳句のコーナーを作ってみてほしい。



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