2018年4月29日

2018年4月29日
昨日、第4回日本翻訳大賞の授賞式があった。去年と同じ会場で、ほぼ満席。めでたい。
きてくださった方には心から感謝申し上げます。
これが終わるとほっとして、ああ、いい1年だったなと思ったりする。
受賞作、19世紀ポーランドの小説『人形』はじつにアカデミックな労作。われと思わん方はぜひ、チャレンジしてほしい。1230ページ、厚さ6センチ。山に例えれば、チョモランマ級。値段も6000円。なので、まずは書店か図書館でぺらぺらめくってみることをお勧めします。読みだせば、最後まで一気でしょう。第2次選考に残った5冊のうち一番分厚い本。
もうひとつの『殺人者の記憶法』は、一番薄い本。なんだけど、内容はじつに濃くて、強烈で、読み終わったら、絶対、すぐに読み返したくなる。映画のほうも超お勧めで、後半が小説とはまったくちがう作りになっているところが見どころ。小説を読んでから映画をみても、後悔しないという珍しい映画。


今回、第2次選考に残った5作のうち、ぼくの一押しは『死体博覧会』! 作者、ハサン・ブラーシムはイラク生まれ。国を逃れ、フィンランドでアラビア語で執筆している。その英訳からの重訳。
それにしても、こんな小説、まず、いままでになかった。短編集なんだけど、14編すべて、エッジが立ってて、ぐさぐさ突き刺さってくる。
【ここからなぜか敬体】
なにしろ作者はイラク出身で、政府ににらまれて、フィンランドに逃げて、そこでアラビア語で小説を書いていて、あとがきによれば、彼はこういっています。
「この五十年間、イラクは暴力と恐怖という悪夢を生きてきた」
だけど、暴力をリアルに残酷に描くのではなく、ファンタスティックに、幻想的に描いていくのが彼の特徴です。
・表題作の「死体展覧会」は、それこそ、殺した人間をいかに人の目にさらすかという、その斬新さを競うという話。まさに、戦争、テロ、自爆、など、様々な形で人が殺されていくイラクの現状をパロディに仕立て上げた作品です。
・「軍の機関紙」という短編も素晴らしい。裁判官の前で、十年前に死んだ男が自分の罪を告白するという物語。この男は、死んだ兵士から送られてくる小説を自分の作品として発表して有名になっていくものの、送られてくる作品がどんどん増えていって、「イナゴの大群のように大量の短編が毎朝届けられる」ようになり、今日は百編、明日は二百編。送られてくるたびに完成度もレベルアップしている。男はしかたなく、それを保管する倉庫を購入する。ところが、さらに送られてくる短編はその数を増し、内容も素晴らしく独創的になっていく。この物語の洪水におびえる男はいったいどうなるのか。とにかく、発想といい展開といい、むちゃくちゃおもしろい。そのうえ、最後のオチが強烈。読み終えてすぐ、最初にもどって読み直しました。カフカとボルヘスとマルケスがいっしょにイラクにいって50年くらい暮らしたら、こんな作品を書くのかもしれない。
とまあ、ぼくは『死体展覧会』を読んで、すごいなと思ったわけです。
しばらくは、どこにいってもこの本の面白さを語ることになりそうです。


【はい、ここからまた常体にもどります】
じつは先日、新宿の書店に寄って翻訳物の棚をみていたら、なんと、ドノソの『夜のみだらな鳥』が新たに出版されていた。ぼくは大学院の頃、集英社の「世界の文学」シリーズでこれを読んで、心の底からびっくっりした。ラテンアメリカの文学は総じて好きなのだが、これと『百年の孤独』は別格。なのに、『夜のみだらな鳥』のほうは長いこと絶版になってい、悲しくてしょうがなかったのだ。まあ、うちの研究室には集英社版が1冊あって、たまに学生が借りていっては、「すげえ!」といってもどしていくんだけど、こんなすごい本が絶版はないだろう! と思っていたら、ようやく、ついに、水声社から出た! 研究室には1冊あるのだが、あまりにうれしくて、つい買ってしまった。
『殺人者の記憶法』といい『死体展覧会』といい『夜のみだらな鳥』といい、こんな本があっていいのか、こんな本を書く作家がいるのかと、心底、不思議に思ってしまう。こういう作品に出会うことこそ、翻訳文学を読む楽しみなんじゃないかと、たまに考えたりする。
ついでに書いておくと、第1次選考であがっていた韓国小説『アオイガーデン』もその手の1冊。ただ、これはちょっと毒が強すぎて、あくも強すぎて、心身が思い切り健康な人か、心身を思い切り患っている人にしか勧められない。だけど、個人的には――こんなことを書くと、友だちがいきなり減りそうだけど――とても好きです。まあ、度胸試しだと思ってチャレンジしてみてください。

なんか、異様にマニアックな方向に話が進んでしまったので、最後は、ちょっとほほえましいエピソードを。モヒカン少女が教えてくれたんだけど、キューバの葉巻工場で、文学作品を朗読するのが仕事、というおじさんの話。
「ルシオ・カンブス・ペーニャ」と入力して検索してみてください。



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