12020年10月30日

様々の事情あって、しばらくのごぶさたでした。事情といっても、たいしたものではなく、月火水はひたすら大学のオンライン授業の準備に忙殺され、それに土日のイベント、講演の準備にも追われ、さらに、共同通信社の書評に追われ、「BOOKMARK」17号の作業に追われと、追われっぱなし、というだけです。ただ、大学も、イベントも、講演も、書評も、「BOOKMARK」も、なんだかんだで、なんとかなるのです……たぶん。

今日の画像は、映画『五日物語』のDVDのジャケットです。ぼくの大好きな映画で、これをみたときは、びっくりしました! それがまた、イタロ・カルヴィーノにつながっていて、そこのところを土曜日のNHK文化講座で話そうと考えています。たぶん、そこに気がついた人は、日本ではほとんどいないと思うのですが、いたら、ごめんなさい。

共同通信社の書評に取り上げる本は、たぶん、アメリカのディストピア小説の新シリーズと、日本のファンタジー小説の新シリーズ。と、ここまで書くと、「なんだ、あれか」と気がつく人が大勢いそうな気がします。そう、あれです。それにしても、どちらもすごい。すごく面白い。文句なく面白い。

そういえば、どちらも作者は女性……まあ、蛇足ですね。

というわけで、申しこんだ方とは、明日、土曜日、NHK文化講座でお会いしましょう。

http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1212760.html

 

 


2020年10月25日

まずは、ディック・キング=スミスのThe Sheep-Pigの書影から。

『世界で読み継がれる子どもの本100』の共訳者、7人の苦労談。これが最後になります。今回、全体を取り仕切ってくれた安納令奈さんです。

 

「苦労話」は書けない
                                                      安納 令奈

 「この本を翻訳中の苦労話を」と問われ、今年2月末からのことを振り返った。たしかに、たいへんなことが続いた。新型コロナウイルスがまたたく間に世界的なパンデミックになり、なにもかもが根こそぎ変わった。調べ物には欠かせない図書館などの施設もいっせいに使えなくなった。そのうち、外出自粛令もでた。

 それでも、本書の翻訳や調べ物をしていたころのことを振り返ったときに、「苦労」という言葉は浮かばない。まず思い出すのは、ピアノの音。それも、ハスの葉の上に落ちた水滴が、透き通った丸々とした珠になり、皿のような葉からコロコロとこぼれ落ちていくような、ひとつひとつが澄んだ音。それをダイナミックに連打する、熱量のあるピアノの音のうねり。
心にあるイメージはこうだ。そのころ繰り返しきいていたあのピアノの音色は透明な膜となり、横殴りの雨や風からわたしを守った。音の膜に包まれたわたしは「今、ここ」から抜け出し時空を超える。タイムトンネルの中は暗い。しかし、闇の先には淡い光がまたたく。そのひとつひとつが、物語だ。そうやって、ピアノの音が響き渡る闇のなかを物語から物語へと、星と星をつなぐようにわたしは突き進んだ。

 そのピアノの音とは何か。世界で活躍するジャズピアニスト、小曽根真さんの演奏する音楽だ。小曽根さんは緊急事態宣言がでた2日後、4月9日から毎晩約1時間、『Welcome to Our Living Room(我が家のリビングルームにようこそ)』というオンラインコンサートを鎌倉のご自宅からライブで無料公開していた。Facebookに登録していれば、だれでもきけた。今こそ、ミュージシャンとしてできることを――。そんなこころざしで始められたライブコンサートは、53日間続いた。

 あのころ、ラジオを(我が家にテレビはないがたぶん、テレビも)オンにすれば、必ずだれかがだれかを批判し、何かに怒っていた。きくに耐えなかった。すべての話題に「新型コロナウイルス感染症による」という枕詞がついた。毎晩9時ごろから始まる小曽根さんのライブコンサートは、そういった現実とは別次元にあった。世の中への文句や不満など、いっさいいわない。今日も無事に1日が終わろうとしていることを喜び、感謝をこめ、友人をもてなすようにくつろいだ表情で、楽しそうに演奏を始める。吹き抜けになったリビングルーム。窓の外で大木の影が揺れ、飼っている猫たちがときおり、画面を横切る。この時間だけは、不安を忘れた。このライブコンサートは、たちまちわたしの生活の一部となった。

 以前から、小曽根さんのファンだ。オスカー・ピーターソンを幼少期に耳コピーして身につけた超絶テクニックを軽々と弾く、全身からあふれでるような音の洪水に魅せられていた。ところが今回ライブをきき続け、驚いたのは、すぐに弾けるレパートリーの幅広さだ。小曽根さんがグランドピアノの前に座り、奥様で女優の神野三鈴(かんの・みすず)さんがリアルタイムにFacebookに寄せられる投稿を読みあげ、次の曲を決める。小曽根さんは、ほとんどの曲をその場で弾けた。ジャズはもちろん、ラフマニノフやショパンのようなクラッシックから、コール・ポーター、アントニオ・カルロス・ジョビンのようなスタンダードまで。マイケル・ジャクソンや、アース・ウインド・アンド・ファイアーなどポップスも押さえていたし、『ドラえもん』、『リンゴ追分』、『涙(なだ)そうそう』といった日本の楽曲まで、にこやかにリクエストに応えた。弾きこんでいない曲は「宿題」にして、後日演奏した。この状況で日々ほがらかに、極上のライブ演奏を続けようとする静かな覚悟。奇跡の1時間を支える練習量を想った。

 視聴者数は、たちまち増えた。やがて世界中の人がアクセスするようになり(小曽根さんはライブ中、英語と日本語で話した)、リクエストがどんどん届いた。やがて5月の終わりに緊急事態宣言が解除されると、このライブシリーズはいったん終了することになった。最終日には視聴者にサプライズが待っていた。いつものようにアクセスすると、そこはいつもの鎌倉のリビングルームではなかった。渋谷にある、オーチャードホールだった。当時、すべての公演を中止していたこのホールを無観客貸し切りにしての、ライブ中継となったのだ。その晩、アクセスしたのは1万7千人。これは、オーチャードホールそのものが、8回は埋まる人数だ。このライブシリーズの初期のころの視聴者はたしか、数百人だった。鳥肌が立った。(※このライブシリーズの動画は現在、閲覧できなくなっている)

 音楽という形のないものが希望となり、明日への力となる。なんて素敵なことだろう。ならばわたしも、形のない「言葉」で自分の役割をまっとうしようと思った。「翻訳」というささやかな持ち場を守る。新型コロナウイルスになんか邪魔されない、と。

わたしはライブも、アーカイブ動画も繰り返し再生した。机に向かい、翻訳する間もずっと。ピアノの音に包まれたタイムトンネルにもぐり、子どものころに親しんだ、懐かしい物語を次々に訪ねた。ウイルスの感染拡大状況なんて、もう、土砂降りの日にきこえる外のノイズでしかない(と思うことにした)。トンネルの奥で「3月ウサギ」を追いかけてウサギ穴に落ち、「グリーンゲイブルス」で腹心の友に出会い、「秘密の花園」への扉を探し当てた。宝の地図に胸躍らせ、遠くの星にいる「バラの花」を想った。ひとつひとつの本がどうやって、手元に届いたのかも思い出した。暗闇のなかで、さまざまな成長過程の自分にも再会した。味方がだれもいないように思え、うずくまるしかないときも、音楽と物語が希望をくれていた。ピアノの音が鳴り続け、訪ねるべき物語がゆくてにある限り、怖くない。
 「夢と希望」。あまりにも使い古され、照れくさい言葉だけれど、これがあれば、なんとかなる。明日の夢がある限り、人は前に進める。

 とうの昔に亡くなった本好きの祖父が、そして母が与えてくれた物語たちを、こんどはわたしがだれかに届ける番になった。なんとか生き延び、そんな役割が巡ってきた――そう思えるとき、世の中がどんな状況でも、至福でしかなかった。だから、わたしには「苦労話」は書けない。

 

 


2020年10月23日

 さて、『世界で読み継がれる子どもの本100』の苦労談、今回は佐々木早苗さんと中野眞由美さんに登場してもらいます。

 

 コロナウィルスのせいで図書館が休館になる前に、一部の資料を集めるのは何とか間に合いました。ただ、作品が古ければ古いほど、著者に関することなどネットを含めいわれていることに違いがあり、その判断に少し困りました。全体としては、小さいころから好きだった物語や、今までまったく知らなかった物語など、児童文学の名作といわれるこれほど多くの作品に触れることができて楽しい翻訳作業でした。また、信頼のおけるみなさんとの作業は勉強になり、とてもいい経験になりました。(佐々木早苗)

 

 この翻訳の話をいただいたとき、犬ヶ島のメイキングブックのときのように、講座のみなさんと一緒にまた翻訳作業ができる! と、とてもうれしく思いました。ところが、いざ翻訳を始めようと思うと、犬ヶ島のとき以上に調べ物が多く、これはかなり大変そうだと気付きました。図書館で必要な資料を予約したものの、そのタイミングでコロナの影響で図書館がしまり、どうしたものかと……。こちら(大阪)では、緊急事態宣言直前のわずか2、3日だけ予約資料の受け取りができるようになり、その間になんとか入手できました。
 翻訳をしているなかで私が一番興味深かったのは、『マイロのふしぎな冒険』です。著者のノートン・ジャスターは共感覚の持ち主で、言葉をきこえたままに理解するそうで、『マイロのふしぎな冒険』のなかでも楽しい言葉遊びがたくさんでてきます。たとえば、主人公のマイロの体が突然浮かび、〈結論〉という島にたどり着くのですが、〈結論〉には飛びつくことでしかたどり着けないとか、「この馬車はどうやって動くの?」とマイロが聞く、「しっ、静かに。It goes without sayingなんだから」といわれるところは、なるほど、と思いました。(It goes without saying「言うまでもない、当然だ」という成句ですが、そのままの意味でとるとsayingがないとgoする=黙っていれば動くになります)。訳者の斉藤健一さんはさぞかし頭を悩まされたのではないかと思うところが随所にありました。ほかにも、この本の挿画を描いたジュールズ・ファイファーとジャスターは近所に住んでいて仲が良く、お互いを出し抜こうとしていたというエピソードもおもしろかったです。〈ゆずりあいの三悪魔〉の描写「いっぴきは背が高くやせていて、もういっぴきは背が低く太っていて、もういっぴきはほかのにひきのどちらともそっくり」というのは、絵に描けないものを書いてやろうとしたのだとか。こんな遊び心満載の本に子どものころに出会っていれば、大好きな一冊になっただろうなと思いました。
 大変なことも多かったですが、好きな作品を選ばせていただけので、非常に楽しく翻訳作業ができました。
 最後のほうは自分の仕事の締め切りとおもいっきりかぶり、みなさんに余計なご負担をおかけして申し訳なかったのですが、この本を翻訳する機会を与えてくださった原書房の編集者さんと金原先生に心から感謝いたします。ありがとうございました。(中野眞由美)

 

 

 


2020年10月23日

(昨日に引き続き、イタリアの作家カルヴィーノの本です。)

 

 10月31日、NHK文化センターの「【オンライン】90分で語る マイベスト・ブックス」の内容、ほぼ今日、決まりました。じつは、ちょっとした発見があって、かなり自分なりに盛りあがっています。
 今回はファンタスティックな作品を紹介しようと決めていました。小学校からずっといままで大好きな『西遊記』から始めて、『バーティミアス』など、魔物の化け比べの話をして、途中、「三つのお願い」で息抜きをして、いきなり、ジェラルディン・マコックランのファンタジー連作集のことを話して、そのうち……さて、そこからどうしようと考えていたのですが、まあ、昨日カルヴィーノの〈我々の祖先〉3部作のことを書いたから、そのからみでなにか……とあれこれ探していたら、探していたものが『イタリア民話集』(岩波文庫)のなかにない! えっ! と思って、さらにあれこれ調べていって、おお! という発見があったのです。これはすごい! と感動しているのは自分ひとりかもしれないけど、早速、訳し始めました。マッテオ・ガローネの映画もからんできます。
 というわけで、10月31日、おそらく本邦初訳のごく短い話を朗読します。自分でいうのもなんですが、「おまえ、なかなか、やるじゃん!」という感じの話になりそうです。おそらく、文化センターのこの企画がなかったら、絶対思いついていなかったと思います。
 我と思わん方は、ぜひ、聞きに来てください。
http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1212760.html

 


2020年10月22日(子どもの本100)

(昨日に引き続き、ニューヨーク在住の小手鞠るいさんの写真。

レイク・オブ・プラシッドの通りのはずれにあるTop of the 

Barのつまみのプレートだそうです。のっているつまみは、いまひとつですが、このプレート(?)が素晴しい)
 さて、今日は、『世界で読み継がれる子どもの本100』の共訳者、中西さんの苦労談です。文中、下訳とありますが、共訳です。

 『世界で読み継がれる子どもの本100』の下訳がはじまったのは3月ごろでした。コロナが流行しはじめ、図書館も閉館してしまい、資料集めに苦労しました。6月に入って、国立国会図書館の抽選予約に当選したときはとても嬉しかったです。ほかにも、国際子ども図書館にも行きました。『世界で読み継がれる子どもの本100』には、すでに廃刊になっていて、入手困難な本もたくさん紹介されています(ぜひ、復刊してほしい名作ばかりですが…)。とはいえ、一度作品に目を通さなければ訳せない箇所がたくさんあったので、国際子ども図書館には非常に助けられました。
 下訳工程は調べものが多く大変でしたが、多くの作品と出会うことができました。たったひとことだけ触れられているような作品がなぜか気になってしまい、実際に最後まで読まずにはいられなくなりました。寄り道の多い下訳作業を終えて、お気に入りの作品がたくさん増えましたので、いくつかご紹介したいと思います。
 まずは、アンソニー・ホロヴィッツの『ストームブレイカー』(竜村風也訳、集英社文庫、2007年)。14歳にして、家族を失った少年がスパイとなって、英国最大の危機に挑むアクション小説です。邦訳の挿絵は『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さんとなんとも豪華。映画『ベイブ』の原作者ディック・キング・スミスの『歌うネズミウルフ』(三原泉訳、偕成社、2002年)もおすすめです。生まれながらに音楽の才能に恵まれた、歌うたいの子ネズミ、ウルフのかわいらしく心あたたまるストーリー。それから私が担当したトーベ・ヤンソンの章で、筆者について調べているうちに出会った『島暮らしの記録』も素晴らしかった。こちらは実際に筆者が無人島で暮らした日々を詩的に記録した作品です。島で暮らす放浪ネコにも癒されました…。
 と、きりがないので、このへんでやめておきます。みなさんも『世界で読み継がれる子どもの本100』をパラパラと10分でも眺めれば、読みたい本がどんどん見つかるはずです。すでに読んだことのある作品であれば、より深く作品を楽しめるようになると思います。
 今回の下訳は7人で分担し(私は16章分を担当)、さらに7人を3つのチームに分けて、下訳のチェックをしました。もちろんそのあとに金原先生の上訳の工程が入ります。また原文の不明点を解決するため、金原瑞人先生のはからいで著者への質問の機会も作っていただきました。金原瑞人先生をはじめ、みなさまに助けられて楽しくお仕事させていただきました。本当にありがとうございました!
                                           10月9日 中西史子


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